2020年の新型コロナウイルスの影響でJR各社のうち上場しているJR東日本・JR東海・JR西日本・JR九州の株価の続落が止まりません。また、JR以外の私鉄系の会社でも株価は続落傾向です。続落幅は新型コロナウイルスの第一波と同じかそれ以上となっています。
株価の推移とJR各社の企業特性を踏まえ、株価が続落となった原因・今後鉄道会社はどうして行くべきか考えます。
【JR株続落】この数か月で変わったことについて振り返る 鉄道会社に対する環境の何が変化したか?
今年は梅雨が7月末まで長引くという天候的な要因で大雨で被災し、特にJR九州では線路が流されるなど新型コロナウイルスの影響で利用が減っているところにさらに追い打ちをかける形になっていて、鉄道会社全体としても苦難の1年となることが予想されます。
中でもJR九州は新型コロナウイルスの影響に比べて大雨による被災がありました。この影響もあってかJR九州の株価は上場以来過去最低を更新し続けています。JR東日本・JR東海・JR西日本も軒並み下落しています。
大雨による被災に加えて2020年は旅行需要が大きく減少しています。確かにGoToトラベルキャンペーンなどの施策も行われていますが、現在のところ「きっぷ」については払い戻しができてしまうため、個人旅行は本キャンペーンの対象外となっています。ただ、フェリーは今のところ個人で手配しても対象となるのでなぜ鉄道は対象外なのかは微妙なところではあります。
鉄道会社にとってきっぷは窓口ではなく、旅行会社経由でなくては割引を受けられないため、例え売り上げが増えたとしても旅行会社への手数料の支払いや乗車率の低迷で、鉄道会社にとってはあまり恩恵を受けられずという状況かもしれません。
2020年8月のお盆は「のぞみ」ですら満席の列車がゼロの異常事態 GoToトラベルキャンペーンも東京都除外で焼け石に水か
事実としてGoToトラベルキャンペーンが始まったにも関わらず、2020年8月のお盆期間の新幹線・在来線特急の指定席予約率約20%で過去最低を記録し、先日の2020年の海の日4連休でも大きな混雑は見られませんでした。8月のお盆についても東海道新幹線の「のぞみ」ですら満席の列車はゼロ・「帰省ラッシュ」「Uターンラッシュ」は消滅という異例の事態が発生しています。鉄道会社に例年の夏休み期間の大きな稼ぎはほぼ無いといってもいいでしょう。
特に最も乗客の利用が多い東京都は当分の間、GoToトラベルキャンペーンの除外となってしまいましたし、政府も「予算が無くなり次第終了なので、特定期間に混雑が集中するのは避ける」という方針を示しています。少なくとも2020年8月までは東京都が除外となる可能性は高いのではないでしょうか?東北新幹線を所有するJR東日本・東海道新幹線を所有するJR東海を中心として影響を与えそうです。
JR東日本「変革2027」から見る今後の鉄道会社の課題
JR東日本は山手線・京浜東北線・中央線などの通勤の主な路線を所有しており、新幹線では東北新幹線・上越新幹線などを所有している会社です。今後どのようにJR東日本としては今回の新型コロナウイルスの影響で生まれた課題について解決していくべきでしょうか。
JR東日本以外の鉄道事業を行っている会社全体に言えることですが、固定費が比較的高い業種であって売り上げが減少すると売り上げに占める経費の割合が急激に増えるという特徴を持っています。
売り上げの内訳を見ると2017年度実績で運輸と非運輸の割合は7:3。2017年度の実績を見る限り運輸が売り上げの比率としては多いですが、新型コロナウイルス影響で売り上げ比率についての正確な比率について発表はありません。
これに対応するため、2018年に「変革2027」というJR東日本の経営ビジョンを掲げており、今後の首都圏の人口減少を見据えてSuicaの電子マネー事業の収益性を向上させ、運輸と非運輸の割合を2027年までに6:4とすることを目指していました。新型コロナウイルスの前から「鉄道依存から脱却する」ということは実行する予定でした。
2018年に発表した「変革2027」は経営方針としては間違ってはいませんが、新型コロナウイルスの影響で2027年に達成すべきだった目標が前倒しにしないと厳しい現状があることも事実です。達成できるかも一つの課題となってくるでしょう。
「前倒しになった首都圏の通勤需要の減少」にどう対応していくか
JR東日本が掲げた経営方針「変革2027」には2025年の段階で通勤需要が減少すると記載がありました。しかしながら新型コロナウイルスの影響で通勤需要の減少が数年「前倒しになった」と言ってもいいでしょう。
「変革2027」では既に首都圏での通勤需要の減少は「当社最大のリスクの一つ」だと位置づけています。しかしながら、これは新型コロナウイルス発生前の2018年に発表されたものです。
首都圏の人口減少は当社最大のリスクの一つであると考えているが、今後 10 年間で
JR東日本「変革2027」
は大きく状況が変わるとは認識していない。他方、30 年後には確実に状況が変化する
と考えている。
「変革 2027」は、今後 30 年を視野に入れたうえで、これからの 10 年間を見据えて
策定した。人口減少等の経営環境の変化を踏まえ、危機感を持ち、これからの変革を
スタートさせたいと考えている。
実際に2020年の新型コロナウイルスの影響で社会生活が一変しました。
先日政府から「在宅ワークを7割とする」ように要請が出され、NTT・日立など大手企業が7割に引き上げ・出社制限を行いました。出社が必要となる業種を除いては在宅ワークが進み、企業としては本社オフィスの縮小などを行い固定費の削減を行っていくでしょう。一部の企業ではオフィスを縮小してその分を社員に還元するという企業もあるでしょう。
また、富士通では転勤をなくし単身赴任を無くす他、「定期券の廃止」を決めました。社員の方からは「勤務終了後や土日に定期券で遊びに行けなくなった」との声も出ているようですが、会社にとっては経費削減となり、これに追従する企業も多く出てくるでしょう。
今後数年は「できるだけ在宅ワークにする・定期券を廃止して経費圧縮」「出社する人を減らしてオフィスを縮小して固定費を抑える」、この2点が今後トレンドとなるでしょう。
JR株・私鉄株が続落した背景には社会生活の変化 新たな収益方法・鉄道運輸の高付加価値化が必要
今回JR株・私鉄株が続落した背景には「旅行需要の低迷が予想以上」・「在宅ワークの推進で鉄道会社の収益が今後減っていく」・「長期的に人々が通勤から離れていく」ということが挙げられます。このような状況下で鉄道会社は鉄道事業以外での新たな収益方法、鉄道事業の高付加価値化(運賃値上げ・車内サービスなどの向上)をさらに行っていく必要があります。
特に西武など百貨店業・ホテル業・鉄道業に依存し、その全てで経営が苦しい会社は苦戦を強いられ、株価は過去最低を更新するでしょう。時代にどのように対応していくかが課題となりそうです。
また、2022年度に着工予定のJR東日本「新宿駅」の東西(現ルミネエスト新宿・小田急百貨店)に建設予定に高さ約260mの超高層ツインタワー計画がありますが、在宅ワークが進む中でオフィス・商業施設の拡大は、「時代のトレンドに沿っているか」疑念を感じるところがあります。今後鉄道会社が計画する不動産事業についてもどのように進展していくかが注目されます。