JR東日本水戸支社の労働組合は2021年7月13日に、労働基準法違反の疑いで「労働基準監督署の立ち入り検査(臨検)」を受けたと発表しました。JR東日本水戸支社では水戸線にワンマン運転に向けた臨時行路で、休憩時間をわずか最大23分しか与えない(最大23分なので、それよりさらに少ない行路もあったと思われる)という「ブラック労働」が行われていたことが明るみとなりました。
水戸線ワンマン運転休憩最大23分の「ブラック行路」
こちらはJR東日本水戸支社労働組合(JR東日本輸送サービス労働組合水戸地方本部)が発表した、休憩なしの「ブラック行路」のイメージ図です。水戸~勝田車両センターまで移動した後、車両センターから車両を出区し、勝田~水戸、水戸から水戸線で小山まで移動、そのあとすぐに折り返し勝田まで試運転。その後勝田~水戸へ戻るという行路となっています。
この間、食事を摂ることができず、また組合員も処分されているということが労働組合資料に書かれています。
JR東日本水戸支社「乗務員には休憩の概念はない」と回答
第三十二条 第一項・・使用者は、法別表第一第四号に掲げる事業又は郵便若しくは信書便の事業に使用される労働者のうち列車、気動車、電車、自動車、船舶又は航空機に乗務する機関手、運転手、操縦士、車掌、列車掛、荷扱手、列車手、給仕、暖冷房乗務員及び電源乗務員(以下単に「乗務員」という。)で長距離にわたり継続して乗務するもの並びに同表第十一号に掲げる事業に使用される労働者で屋内勤務者三十人未満の日本郵便株式会社の営業所(簡易郵便局法(昭和二十四年法律第二百十三号)第二条に規定する郵便窓口業務を行うものに限る。)において郵便の業務に従事するものについては、法第三十四条の規定にかかわらず、休憩時間を与えないことができる。
第2項・・・使用者は、乗務員で前項の規定に該当しないものについては、その者の従事する業務の性質上、休憩時間を与えることができないと認められる場合において、その勤務中における停車時間、折返しによる待合せ時間その他の時間の合計が法第三十四条第一項に規定する休憩時間に相当するときは、同条の規定にかかわらず、休憩時間を与えないことができる。
労働基準法施行規則 第32条より
JR東日本水戸支社は今回の臨時行路は6時間の継続乗務ではないことを理由に、「乗務員には休憩の概念がない」と回答しています。これは労働基準法施行規則第32条の第2項に該当するというのがJR東日本水戸支社の回答です。
労働基準法第34条で、労働時間が6時間を超え、8時間以下の場合は少なくとも45分
8時間を超える場合は、少なくとも1時間の休憩を与えなければならない、と定めています。
厚生労働省「労働時間・休憩・休日関係」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken02/jikan.html
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
2.賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
3.退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
3の2. 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
労働基準法第89条
ただ、今回問題となっているブラック行路は「ブラックではない、適切な行路も作成可能であった」ということで労働組合は主張した形です。また、労働基準法第34条にも違反しており、就業規則に乗務員の休憩時間が明確に掲載されていないことが労働基準法第89条に違反していると労働組合は主張しています。
2020年10月から「ブラック行路」がスタート 8時間拘束で休憩なし
水戸線のワンマン運転の訓練を兼ねた試運転は2020年10月から始まっています。この時も小山駅での折り返し時間が40分しかなく、また列車監視がついているため、事実上休憩時間がなかった行路になっていました。また、この行路でも労働基準法第34条に違反していた可能性があります。
この時は最大7時間54分も休憩時間・食事なしの行路になっていたため、「社員は会社のロボットではない」と批判の声が労働組合資料に掲載されていました。いくら利益のため、行き過ぎたコストカットではないでしょうか?
今後水戸支社は改善をするかどうか注目
今回の労働基準監督署の立ち入り検査を受けて水戸支社がどう改善するのかが注目されます。
通常、労働基準監督署の立ち入り検査で改善指導・是正勧告が行われ、その後改善しない場合には送検などの措置が行われます。また、送検された場合には労働局のホームページに企業名が公表されることになり社員の採用にも悪影響が出る可能性があります。