東海道新幹線で昔クリスマスソングが年間を通して流れていたのをご存じですか?「ひかりチャイム」と聞けば分かる鉄道ファンの方も多いと思います。実はクリスマスソングだったということについて詳しく解説しました。
「きっと君はこない・・・」という山下達郎さんのChristmas EveはJR東海のX’mas EXpress(クリスマスエクスプレス)のCMに使われていましたが、今回はそれではなく「東海道新幹線で年間を通して流れていたクリスマスソング」のお話です。
通称「ひかりチャイム」実はクリスマスソングだった
鉄道ファンからは「ひかりチャイム」と呼ばれている車内放送の前に使われることから「ひかり+車内チャイム」というところから来ています。
東海道新幹線で一番早い列車は「のぞみ」だから、のぞみチャイムだと思った人もいるはず。「ひかりチャイム」が登場したのは1987年4月1日。その当時は最も早い列車は「ひかり」だったことからそう呼ばれています。今はJRですが、当時は国が鉄道を運営しており、国鉄という組織でした。
のぞみが登場したのは1992年3月のダイヤ改正からで、当時は朝晩2往復しか運転されておらず、それ以外の列車はひかり・こだましか在りませんでした。早朝に運転されていた「のぞみ301号」は名古屋駅を通過し、名古屋の人々は「名古屋飛ばし」といい、物議を醸していた時代です。
今では全列車が名古屋に止まるようになり、のぞみが1時間に12本運転できるということで、今では信じられないことかもしれません。
そんな時代に東海道新幹線で使われていたのが「ひかりチャイム」です。
当時のひかりチャイムの放送 当時は2階建て・グリーン個室・食堂車・公衆電話も
当時のひかりチャイムの放送です。現在の車内チャイムと音が異なっていることが分かります。また、東海道新幹線の声をやっている方は今と変わっていませんが、若干声が高いのが特徴です。声優さんの年齢の影響もあるかもしれませんね。
2階建て・食堂車・公衆電話の案内がされている部分も必見です。
車内放送から分かる通り、当時東海道新幹線に使用されていた100系新幹線は2階建てで、ビュッフェという食堂車がついていました。当初は窓が小さく「眺望が悪い」という乗客の声から、窓を大きく拡張した車両でもあります。
ちなみに赤いマークは「New Shinkansen」という意味で、NとSが組み合わせた形になっています。
2階はビュッフェまたはグリーン車、1階にはグリーン車の個室が設けられていました。今の東海道新幹線には2階建てとグリーン個室はありませんね。
また、当時は携帯電話が普及していなかったこともあり、公衆電話が設置されていました。
話を戻しますが、「ひかりチャイム」には原曲がありました。それは「Do They know It’s Christmas」という曲です。なぜ、クリスマスソングが年間を通して使われていたのでしょうか?
「ひかりチャイム」の意味は? 原曲はエチオピアの飢饉で作られた曲
「ひかりチャイム」の原曲はクリスマスソングです。では、なぜ通年を通して使用されたのでしょうか?
「Do They know It’s Christmas?(ドゥ ゼイ ノウ イッツ クリスマス)」という曲が原曲ですが、その曲は1984年に「エチオピア飢饉」がきっかけで発表された曲です。
「エチオピア飢饉」では、1983年から1985年から干ばつが原因で食料・家畜が無くなってしまい100万人が餓死しました。
この状況を受けて、イギリスとアイルランドのロック・ポップ界のアーティストが集まって結成されたチャリティープロジェクトです。グループ名は「バンドエイド」と名付けられました。
曲を作り飢饉の救援活動を支援するための資金に充てようとしていたのです。実際に資金調達は成功し、1000万ドルを調達しました。
「ひかりチャイム」はなぜ採用されたのかというのは残念ながら文献もないため、確かめることができません。実際は単に似てしまっただけで「Do They know It’s Christmas?」無関係という意見もあります。
しかしながら、曲の発表が1984年、ひかりチャイムの採用が1987年であることを考えると無関係とはいえないと思います。なにか、国鉄としても乗客に「新幹線に乗るという当たり前の日常には、実はささやかな幸せということを感じ取ってほしい」という意図があったかもしれません。
ひかりチャイムに使われている「Do They know It’s Christmas?」の意味は次の通りです。
It’s Christmas time クリスマスがやってきた
There’s no need to be afraid なんの心配もいらない
At Christmas time クリスマスのひと時には
We let in light and we banish shade 日を導きいれて影は追い出そうAnd in our world of plenty 食べ物に不自由しない世界では
We can spread a smile of joy 喜びの笑みを振りまくこともできる
Throw your arms around the world 救いの手を差し伸べよう
At Christmas time このクリスマスにBut say a prayer 恵まれない人達のために
Pray for the other ones 祈りをささげよう
At Christmas time このクリスマスにAnd it’s a world of dread and fear 不安と恐怖に満ちた世界
Where the only water flowing そこに流れる水は
Is the bitter sting of tears 苦しい痛みと涙だけ(エチオピア飢饉は干ばつが原因だったため)And the Christmas bells that ring there 彼らの地で響くクリスマスの鐘は
Are the clanging chimes of doom 運命の音色(死を意味する)Well tonight thank God it’s them instead of you だから今夜は彼らのような境遇にないことだけでも神に感謝しよう(この部分が当時批判された)
And there won’t be snow in Africa This Christmas time アフリカにはクリスマスに雪は降ることはない
The greatest gift they’ll get this year is life 彼らにとって今年の最高の贈り物は生きることだ
Where nothing ever grows 草木は生えず
No rain nor rivers flow 雨も降らず、川も流れることはない
Do they know it’s Christmas time at all? 彼らは今がクリスマスだということが知っているだろうか?Here’s to you, raise a glass for everyone 皆を思って乾杯しよう
Here’s to them, underneath that burning sun 灼熱の太陽の下にいる彼らのためにも
Do they know it’s Christmas time at all? 彼らは今がクリスマスだということが知っているだろうか?Feed the world 食べ物を贈ろう
Feed the world 飢えから救おう
Feed the world 手を差し伸べよう
Let them know it’s Christmas time again クリスマスがやってきたと知ってもらおう
Feed the world
Let them know it’s Christmas time again…
ひかりチャイムはなぜ使われなくなった?
なぜひかりチャイムは東海道新幹線で使われなくなったのでしょうか?転機は2003年の「東海道新幹線品川駅開業」です。当時の「のぞみ」は東京駅を出発すると名古屋まで止まらず、新横浜すら通過しているという状況でした。
当時品川駅で折り返し列車を設定することで、運転本数を増やせると考えられていました。これにより「のぞみ7本ダイヤ」を実現し、確かに画期的なものでしたが、約17年後に「のぞみ12本ダイヤ」を車両性能を向上させて実現することになります。
副産物として、新大阪方面から来た列車が混雑していて、東京駅も混雑している状況にある場合に「東京駅が混雑しています。差し支えなければ東京駅着の新幹線特急券でも品川で下りられます。」という案内がされることがあり、こういった場合には東京駅の混雑を抑えられており、品川駅開業は無駄ではなかったということになります。
話を「ひかりチャイム」について戻しますが、品川駅開業で車内チャイムが変えられることになりました。『のぞみはかなう』というキャッチフレーズのTOKIO「AMBITIOUS JAPAN!」です。
現在も東海道新幹線に使用されている曲で、JR東海所有の車両で使用されています。ちなみに、JR西日本車両が東京駅まで乗り入れることもあり、その時は山口百恵「いい日旅立ち」が流れます。
当時使用されていた700系新幹線には「AMBITIOUS JAPAN!」と車体に書かれていた車両も存在しました。
「ひかりチャイム」が現在も使用されているところは? JR東日本・西日本で使用
東海道新幹線の車内チャイムとしては現在使用されていませんが、山陽新幹線でも「ひかりチャイム」と「銀河鉄道999」が列車の接近メロディーとして使用されています。
「ひかりチャイム」の後に列車の案内放送が行われます。
JR東日本でも聴くことができます。しかも新幹線ではなく横須賀線ホームです。
ひかりチャイムが聴けるのは品川駅の15番線でひかりチャイムという名前ではなく「ML24」という曲名だそうです。曲名は変わってもひかりチャイムをアレンジしたものが使われています。
ひかりチャイムまとめ
ここまでのひかりチャイムについて内容をまとめると、
- ひかりチャイムは1987年~2003年まで使用されていた
- ひかりチャイムの原曲は「Do They It’s Christmas」
- 「Do They It’s Christmas」はエチオピア飢饉を救おうと作曲された
- ひかりチャイムが終了した理由は品川駅開業に伴う「のぞみはかなう」のCMで使用されていた「AMBITIOUS JAPAN!」を使用することになったから
「メリークリスマス」を使うのは日本だけ? 誰に対しても使うのはタブーになりつつある
「ひかりチャイム」がクリスマスソングだったということに関連して、クリスマスのあり方について書いてみました。良かったら読んでください。
2020年は新型コロナウイルスの影響で、恐らく例年通りのようにクリスマスのように賑わうことはないと思います。生活が苦しいという方も多いと思います。ひかりチャイムの原曲が作られた1984年エチオピア飢饉と、2020年の新型コロナウイルスの状況には共通点はいくつかあると私は感じています。
例年、日本のクリスマスは「クリスマスプレゼントとして自分の欲しいものを買う」とか、「カップルがクリスマスツリーの前で過ごす」とかそういうことだったと思います。
しかし、本場のクリスマスの目的は「家族や大切な人との時間をゆっくり過ごす」というのが目的であり、日本のように「年末商戦」が目的ではありません。外国のクリスマスは正月のように、実家に帰る人も多いそうです。
また、近年様々な人種や宗教が共存しているアメリカでは、「特に宗教に関する行事の押し付けをしない」「キリスト教以外の人にも配慮する」という理由で、宗教観の違う人に「Merry Christmas」を使うこと避ける動きになっていて、「タブー」になってきている面もあります。使ってはいけない言葉とかそういうことではなく「Merry Christmas」か「Happy holidays」の使い分けは臨機応変に使いましょうということだと思います。
代わりに「happy holidays(良い休日を)」という言葉がよく使われており、holidayではなく「holidays」と複数形になっているのは様々な宗教や文化に配慮するという意味が込められています。
これらのことを考えると、日本で行われてきたクリスマスは「宗教観には適当で、年末商戦とかそういうことしか考えていない」と外国の方に思われても仕方がないことだと思います。
2020年のクリスマスは「日本のクリスマス」ではなく「世界基準のクリスマスを過ごす」というのもありかもしれませんね。